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【はじめに】DXの次に来る「DTO」という視点

多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していますが、「改革が定着しない」「成果が見えない」といった悩みが依然として多く聞かれます。

これらの原因の多くは、業務プロセスや組織の構造をデータとして把握・可視化できていないことにあります。

そこで注目されているのが、DTO(Digital Twin of an Organization/組織のデジタルツイン)という新しい考え方です。

DTOは、企業の仕組みそのものをデジタル上に再現し、リアルタイムに分析・最適化する仕組みです。

本コラムでは、このDTOの概念と実現手法を、世界的動向とともにわかりやすく解説していきます。

1. デジタルツインとは何か ── NASAに始まり、製造業で発展した「仮想の双子」

DTO(組織のデジタルツイン)を理解するには、まず「デジタルツイン」という概念そのものを知る必要があります。

デジタルツインとは、現実世界に存在するモノやシステムをデジタル上に再現し、その挙動や状態を可視化・分析する仕組みです。

この考え方は、実は宇宙開発の現場から始まり、製造業の発展とともに進化してきました。

NASAが生んだ「仮想の双子」という発想

デジタルツインの起源は、アメリカ航空宇宙局(NASA)に遡ります。

NASAではアポロ計画の時代から、宇宙船の構造・状態を地上に再現し、仮想空間上でトラブルを検証・修正するという手法を採用していました。

これは“地上にもう一つの宇宙船を持つ”という意味で、まさに「デジタルの双子=Digital Twin」の原型でした。

その後、この考え方は「現実と仮想をリンクさせることで、リスクを最小化し、意思決定を最適化する」という思想として確立されます。

※参考:NASA John Vickers, “NASA Digital Twin Model Development,” 2010.

製造業での進化 ─ IoT・AIが広げた適用範囲

2000年代に入り、IoT(モノのインターネット)やAIの進化によって、現実のセンサー情報をリアルタイムに取得し、デジタル空間で再現する技術が進みました。

GE(General Electric)やSiemensなどの企業がいち早く導入し、設備・工場・機械などの“モノ”の動作をデジタル上で監視・最適化する仕組みとして広がりました。

今日では、製造業だけでなく、都市開発、インフラ運用、医療など、さまざまな分野で「デジタルツインによる予測・最適化」が実用化されています。

このように「モノをデジタルで再現する」という発想が、やがて「組織をデジタルで再現する」=DTO(Digital Twin of an Organization)へと進化していきます。

2. Gartnerが定義する「DTO(組織のデジタルツイン)」

DTOという概念を最初に明確に定義したのは、世界的な調査機関であるGartner(ガートナー)です。

Gartnerは2021年のレポートでDTOを「組織の状態と変化をリアルタイムに把握するための動的ソフトウェアモデル」として定義しました。

ここでは、その定義文と構成要素、さらに他社が示す視点との違いを整理します。

GartnerによるDTOの定義(原文引用)

“A digital twin of an organization (DTO) is a dynamic software model of any organization that relies on operational and contextual data to understand how an organization operationalizes its business model, connects with its current state, responds to changes, deploys resources and delivers customer value.”

(DTOとは、組織の運用データおよび文脈データに基づき、組織がどのようにビジネスモデルを運用し、現状を把握し、変化に対応し、リソースを展開し、顧客価値を提供しているかを理解するための動的なソフトウェアモデルである。)

出典:Gartner, Market Guide for Technologies Supporting a Digital Twin of an Organization (ID G00785499), 2021.
引用元:Cosmo Tech公式記事

この定義から分かるように、DTOは「単なるデータモデル」ではなく、組織運営の仕組みと変化の因果関係を“動的”に捉えるモデルです。

DTOを構成する主要要素(4つの観点)

Gartnerや関連機関が示すDTOの構成要素は、以下の4観点で整理できます。

  1. 構造(Structure) ⋯ 組織・業務プロセス・システム・人材の全体モデル
  2. データ(Data) ⋯ 運用データ、ログ、トランザクション、文脈情報
  3. 分析(Analytics) ⋯ 現状把握・KPIモニタリング・予測・シミュレーション
  4. 最適化(Optimization) ⋯ 改善施策の反映・自動化・継続的学習

これらは後述の「4レイヤー構造」にも通じる概念であり、DTOの実現プロセスの骨格になります。

他社が示すDTOの定義との比較(QPR/Mavim/Ardoqなど)

DTOはGartnerだけでなく、複数の企業・研究機関でも独自の視点から定義されています。

他社が示すDTOの定義との比較(QPR/Mavim/Ardoqなど)

これらを俯瞰すると、DTOとは「組織のあらゆる要素をデジタルで結びつけ、変化に対応できる経営基盤を構築する考え方」と位置づけることができます。

3. DTOが注目される背景と効果──なぜ今「組織のデジタルツイン」なのか

DTO(Digital Twin of an Organization)が注目を集める背景には、企業を取り巻く環境の急速な変化と、従来のDX推進が抱える限界があります。

この章では、「なぜDTOが今求められるのか」「企業にもたらす具体的な価値は何か」を整理します。

DXが進まない本当の理由

多くの企業では、DXプロジェクトが「システム導入」で止まり、業務そのものの変革や継続的改善にまで至らないケースが少なくありません。

原因は、組織内のプロセスやデータが分断されており、“現状を正確に把握できていない”ことにあります。

DTOは、組織の実態をデジタル上で「写し取る」ことによって、この“現状不明確”という課題を根本から解消するアプローチです。

環境変化と組織の複雑化

市場やテクノロジーの変化スピードが速まるなか、企業は複数のシステム・ツール・外部サービスを組み合わせて業務を運営しています。

しかし、その複雑性が高まるほど「全体最適」が難しくなります。

DTOはこうした複雑な組織構造を1つのデジタルモデルとして可視化し、シナリオごとの影響を定量的に分析できる仕組みを提供します。

これにより、経営層は意思決定を“データで裏づけ”しながら、変化への即応性(アジリティ)を高めることができます。

DTOがもたらす3つの効果

DTOを導入・活用することで、企業は次の3つの価値を得られるとGartnerをはじめ多くの機関が指摘しています。

DTOがもたらす3つの効果

これら3点は、DTOが単なる“可視化手法”ではなく、経営と現場をリアルタイムに結ぶ意思決定基盤であることを示しています。

DTOは「DXの次のステージ」

DXが“デジタル化による価値創出”だとすれば、DTOは“デジタルで組織を理解し、持続的に進化させる”段階です。

Gartnerはこれを「Composable Business(構成可能なビジネス)」への移行と位置づけ、DTOをその中心的コンセプトの一つとしています。

“DTOs play a key role in building a composable organization that can respond dynamically to disruption.”
(DTOは、変化に動的に対応できる“コンポーザブルな組織”を構築する上で重要な役割を果たす。)

出典:Gartner, Top Strategic Technology Trends 2021–2023.

では、このDTOを構成する仕組みはどのようになっているのでしょうか。次章では「4つのレイヤー構造」を解説します。

4. DTOの仕組み ── 4つのレイヤーで組織を写し取る

DTO(Digital Twin of an Organization)は、単なる概念ではなく、組織全体をデジタル上に再現する4つのレイヤー構造で成り立っています。

下から上へ積み上げるこの構造により、「可視化 → 分析 → 改善 → 定着」という継続的な業務改革サイクルを実現します。

レイヤー① モデル化層(Model Layer)

目的: 業務プロセスや組織構造、役割、ルールなどを定義し、組織活動の全体像を「見える化」する。

具体例:

  • BPMNによる業務フロー設計
  • RACIチャート(役割・責任整理)
  • 業務階層体系(APQCなどのフレームワーク参照)

ポイント: DTOの出発点となる層。ここで定義する「あるべき業務モデル(To-Be)」が上位層の分析・最適化の基盤となります。

レイヤー② データ取得層(Data Layer)

目的: 実際の業務実行から発生するイベントログやトランザクションデータを収集・統合する。

具体例:

  • ERP/CRM/ワークフローなどの業務システムのログ
  • 各種アプリケーションの操作履歴・承認記録
  • 業務KPIやリソース稼働データ

ポイント: データ取得層はDTOの「血流」にあたる部分。この層の精度が低いと、上位層での分析・最適化は成り立ちません。つまり、信頼できるデータ基盤の整備がDTO成功の前提条件です。

レイヤー③ 分析層(Analytics Layer)

目的: 収集したデータを用いて、実際の業務プロセスの動きを可視化し、ボトルネックや非効率を分析する。

具体例:

  • プロセスマイニングによるAs-Is分析
  • KPI/リードタイム/パス分析
  • What-ifシミュレーションによる改善シナリオ評価

ポイント: DTOの“心臓部”となる層。理想(To-Be)と現実(As-Is)の差をデータで測定し、改善仮説を導く役割を果たします。

レイヤー④ 最適化層(Optimization/Execution Layer)

目的: 分析で得た知見をもとに、改善施策を実際の業務に反映し、その結果をモニタリングする。

具体例:

  • ワークフローやローコードツールによる自動化
  • アラートルール設定による運用最適化
  • モニタリングダッシュボードによる効果検証

ポイント: DTOが“実行型のモデル”として機能する段階。改善が定着し、継続的に成果を測定できる状態を目指します。

4レイヤーの循環構造

目的: 4層を単発で終わらせず、継続的に回す仕組み(ループ)を形成する。改善結果が再びモデルにフィードバックされる「循環構造」として機能します。

解説:

  • モデル化層で定義された理想像
  • データ取得層で収集される実績データ
  • 分析層で得た洞察
  • 最適化層で実行された改善

これらが循環することで、DTOは「静的なモデル」ではなく「生きた学習システム」として成長します。

4レイヤーの循環構造

5. DTOとDX・BPMの関係 ── DXを支える“橋渡しの概念”

DTO(Digital Twin of an Organization)は、DXやBPMの代替概念ではなく、両者をつなぐ橋渡しの存在として位置づけられます。

この章では、DX・BPM・DTOの関係を整理しながら、企業がどのように段階的に取り組むべきかを解説します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は「目的」

DXとは「デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化を変革し、新しい価値を創出すること」。

DXはあくまで「到達点=目的」であり、DTOやBPMはその実現のための仕組みです。

経営戦略と現場改革を分断せず、戦略→実行→検証を循環させることがDX成功の鍵となります。

BPM(ビジネスプロセスマネジメント)は「手段」

BPMは、業務プロセスを可視化・標準化し、改善を継続的に管理するためのマネジメント手法です。

  • 業務フロー設計(As-Is/To-Be)
  • プロセスKPIの設定とPDCA
  • プロセスマイニングによる実態把握

BPMは「現場の最適化」に強いが、「組織全体の動的把握」まではカバーしきれません。このギャップを埋めるのが、次に紹介するDTOの役割です。

DTO(組織のデジタルツイン)は「つなぐ基盤」

DTOは、BPMで得られた業務モデルや実績データをもとに、組織全体をリアルタイムで再現・最適化する基盤です。

  • DX(戦略レイヤー)を現場実行へ橋渡しする「構造的モデル」
  • BPM(実行レイヤー)の改善結果をDX戦略にフィードバック
  • 組織を“生きたデジタルモデル”として運用可能にする

DTOを中心に置くことで、戦略と実務がデータで連動するエコシステムが構築されます。その結果、DXの成果が継続的に測定・改善できるようになります。

DX/DTO/BPMの関係マップ(全体図)

DX/DTO/BPMの関係マップ(全体図)

図のように、
 DXは「何を目指すか」
 DTOは「どのように全体を動かすか」
 BPMは「どのように現場で実行するか」

という関係で構成されます。

つまりDTOは、戦略を現場へつなぐ“デジタルの中枢神経”とも言える存在です。

6. DTO実現の第一歩は「業務の見える化」から

DTOの実現には、データ基盤や分析環境の整備が欠かせません。しかし、その前提となるのは、業務の構造を正しく把握することです。

つまり、業務可視化やプロセスマイニングの取り組みそのものが、DTOへの第一歩となります。

業務データを集め、プロセスを可視化し、改善サイクルを回すこと。その延長線上に、組織全体のデジタルツイン=DTOの構築があります。

DTOを「未来の仕組み」と捉えるのではなく、今日の“業務改善の積み重ね”の先にある“次の姿”と考えることが重要です。

まとめ ── DTOは“未来の構想”ではなく“次世代の業務改善手法”

DTO(Digital Twin of an Organization)は、「いつか実現する理想の仕組み」ではなく、業務可視化・データ分析・改善サイクルの延長線上にある、次世代の業務改善手法です。

組織の実態をデジタルで再現し、リアルタイムに最適化できるようになれば、DXの効果を持続的に高める“進化する仕組み”が生まれます。

いま進めている業務改革の先に、DTOの世界が広がっています。「見える化から始めるDTO」──その第一歩を踏み出すタイミングは、まさに今です。

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