DXや業務改革を進める第一歩は、「現状業務(AsIs)の可視化」です。
しかし、業務フローを作成しても「実態とずれる」「更新されない」などの問題が多く見られます。
本記事では、現役コンサルタントが BPMNを活用した業務可視化と整理のコツ を解説し、誰でも使える実践的なAsIs業務フロー作成のポイントを紹介します。
1.As-Is業務フローとは? ― DX・業務改革の出発点を正しく理解する
単なる図作りではなく「課題発見」がゴール
業務フローは、現状を正確に把握し、改善課題を抽出するための分析ツールです。目的を「図を作ること」ではなく、「現場の課題を発見すること」に設定することが成功の鍵です。
業務を可視化せずに活動を進めた結果、現場から「現状と違う」と指摘されて論点がずれたり、システム化の要求漏れが発生したりするケースを多く聞きます。初期段階では工数がかかりますが、しっかりと現状把握することで、次のステップを確実に進めることができます。
業務フローから得られる効果
業務フローを通じて、現場・管理職・システム部門が共通理解を持つことができ、言葉の定義や認識のズレをなくし、改革議論をスムーズに進めるための土台となります。
- 関係者間での共通認識によるスムーズな議論
- ボトルネックや無駄・手戻りが多い工程の可視化
- 属人化業務や手作業の特定
- 部門間の重複・非効率の把握
例えば、同じ帳票でも部門によって呼び方が異なったり、スコープとする業務範囲の認識が異なることで会議がなかなか進まないということはよくあります。このような場合、業務フローを共通の基準として確認しながら進めることで、認識の齟齬を防ぐことができます。
2.業務フロー作成でよくある問題 ― 可視化の落とし穴を防ぐ
活用されなければ意味がない
せっかく作成した業務フローも、有効活用できなければ無駄な作業です。業務フローを作成することが目的ではなく、その先の改善や改革につなげることが重要です。そのため、極力手戻りなく効率的に進める必要があります。
また、継続的な改善活動を行っていくためには、業務フローは「作って終わり」ではなく、改善・更新していく運用設計が欠かせません。
よくある4つの落とし穴と対策
お客様から最も多くいただくご相談は、「業務フローを作ったのはいいが、内容がわかりにくい」というものです。たとえば:
- 流れが交差しすぎて見づらい
- 分岐が多く条件が書かれていない
- 仕事の始まりや終わりがわからない
- 細かすぎて全体像がつかめない、または抽象的すぎて活用できない
また、複数人で作成している場合、担当者ごとにアウトプットの粒度や構成が異なることで品質のばらつきが生じるケースもあります。
可視化が難しい要因
| よくある問題 | 典型的な状況 | 対応策 |
|---|---|---|
| 現状ではなく理想状態で描いてしまう | 「本来こうすべき」という想定で作図してしまう | 実際の手順を事実ベースで整理し、To-Beと区別する |
| 粒度がバラバラ | 担当者ごとに表現方法が異なる | 標準フォーマットを設定し、例示を共有する |
| 情報が過少/過剰 | 詳細すぎて読めない/抽象的すぎて活用できない | 利用目的(分析/教育/システム化)に応じてレベルを調整する |
| 更新されず陳腐化している | 担当変更やルール変更後も放置されている | 管理ルールを定め、定期的に見直すサイクルを設定する |
アウトプットの品質が異なることで、後から修正や統合作業に追われたり、結果的にやり直しが発生してしまうこともあります。最悪の場合、せっかく作成したフローを活用しないままプロジェクトが進行してしまうケースも見られます。
プロジェクト初期に「標準ルール」を定義する
記号の使い方・粒度・命名規則などの「作図ルール」を明確にしておくことが大切です。これにより、複数メンバーでの作業でも一貫性を保ち、後の混乱を防ぐことができます。
標準ルールを整備してメンバーに教育を行うことは一時的に負荷がかかりますが、一度整備してしまえば、後続プロジェクトで再利用できる大きな資産になります。さらに、あらかじめ定義された記述ルール(例:BPMN)を採用すれば、誰が作っても品質を一定に保つことが可能です。
3.BPMN形式で標準的な業務フローを作る
BPMNとは何か?
前述のように、業務フローは「誰が見ても同じ意味で理解できる」ことが重要です。業務フローの記述方式にはいくつかありますが、国際標準として定められた記述方式を採用することをおすすめします。
BPMN(Business Process Model and Notation)は、国際標準(ISO19510)に準拠した業務フローのモデリング記法です。業務の手順(アクティビティ)、判断(ゲートウェイ)、担当者(スイムレーン)を統一的に表現でき、関係者間で共通理解を形成するうえで非常に有効な手法です。
<BPMNを使った業務可視化サンプル>

BPMNを使う3つのメリット
- ルールが明確で、誰でもすぐ始められる
あらかじめ記法ルールが標準化されているため、初めてでも迷わず作図できます。結果として、導入時の教育コストや準備の手間を大幅に削減できます。 - 作成者が違っても品質が揃う
BPMNでは図形や関係の意味が統一されているため、担当者や部門が異なっても標準的で再利用性の高い業務フローを作成することができます。 - システム導入時の要件定義にそのまま使える
BPMNでは「実行モデル」と呼ばれる粒度で業務を表現できるため、システム要件定義書や自動化設計ドキュメントに直結する実務的な成果物として活用できます。
作成ツールの選び方
BPMN図はExcelやPowerPointでも作成可能ですが、専用のモデリングツール(例:Visio、Bizagi、Camunda Modeler、Draw.io、iGrafx、ARISなど)を活用することで、作図効率と品質の両立が可能になります。
これらのツールでは、BPMNで定義された図形や記号が一覧で利用でき、作成時のミスや記号の不統一を防止できます。
公共分野でも広がるBPMNの採用
BPMNの記述方法は民間企業だけでなく、自治体や公共機関でも広く活用されています。行政手続きや補助金申請プロセスなど、住民サービスの業務改革にも応用されています。まだ触れたことがない方は、この機会にぜひ一度学習してみることをおすすめします。
具体的によく使う図形の意味や使用例をまとめた「BPMN手引書」をご用意しています。下記よりダウンロードしてご活用ください。
ここだけ抑えればわかる!BPMNの書き方手引書
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4.粒度(レイヤー)の考え方 ― 業務フローの階層設計を理解する
なぜ階層構造が必要なのか
業務フローを階層的に整理することで、全体構造と詳細を分けて考えることができます。これは、経営層・部門長・担当者など、立場の異なる関係者が業務を理解するための共通基盤となります。
例えば、経営層に課題や施策案を説明する際に、いきなり詳細プロセスの説明から始めても伝わらないことがほとんどです。自社業務の全体構造、その中の課題箇所、解決の方向性という流れで説明することが重要です。
レイヤー別の整理例
そこで重要になるのが「階層構造(レイヤー)」の考え方です。イメージとしては、「世界地図 → 日本地図 → 都道府県 → 市区町村 → 番地」のように、上位から下位へ詳細化していく形になります。
このように階層化することで、全体最適と部分最適のバランスを保ちながら業務を把握できます。企業情報化協会やITコーディネート協会などが公開しているガイドラインを参考に、あらかじめ階層構造を定義しておくと整理がスムーズです。
| レイヤー | 対象範囲 | 目的 |
|---|---|---|
| レベル1 | 全社・事業単位 | 業務体系を俯瞰し、バリューチェーンや取引関係を網羅的に把握する |
| レベル2 | 部門・主要プロセス | 業務上の課題を抽出し、改善対象を特定する |
| レベル3 | 業務手順・例外対応 | 実務レベルの改善策を検討し、詳細な業務条件を整理する |
参考資料
- 参考:ビジネスプロセス・モデルの階層(レイヤー)とステップ
公益社団法人 企業情報化協会
https://www.bpm-j.org/download/bpmmodel.pdf - 参考:階層化アプローチによる業務システム設計
ITコーディネータ協会
https://www.itc.or.jp/it_4.html
5.業務分析に必要な情報 ― 定量と定性の両輪で“実態”をつかむ
業務フローだけでは全体像をつかめない
業務フローを整理しただけでは、現場で発生している課題の真因までは見えてきません。たとえば、フロー上では単純に「承認」という1ステップに見えても、実際には「誰が」「どのような判断基準で」「どのシステムを使って」承認しているのか、といった情報が抜け落ちているケースがよくあります。
こうした背景情報を把握していないと、改善策が表面的になりやすく、再発防止や効率化に結びつかないこともあります。そのため、業務フロー図と併せて「業務分析用の補足情報」を整理することが重要です。
業務分析に必要となる代表的な情報項目
| 分類 | 代表的な内容 | 補足 |
|---|---|---|
| ① 業務目的 | その業務が存在する目的、成果物、KPI | 「何のために行っているか」を明確化 |
| ② 業務担当者(役割) | 実施者、承認者、関係部署 | 属人的な依存を洗い出すための手がかり |
| ③ 入力・出力情報 | 利用する帳票・システム・データ | IT活用や自動化検討の基礎情報になる |
| ④ 使用システム | 関連システム、Excel管理、外部ツール | 既存システムの重複・手作業の残存を把握 |
| ⑤ 所要時間・発生頻度 | 処理時間、月次・日次などの発生頻度 | 改善効果の見積りや優先順位付けに活用 |
| ⑥ 課題・制約条件 | 業務上のボトルネック、ルール、承認基準 | 改善施策検討の前提条件になる |
<業務分析の定量データ・定性情報整理方法サンプル>
| 🎯 業務目的 | 👥 担当者 | 🗂️ 入出力情報 |
|---|---|---|
| 受発注のリードタイム短縮、誤発注防止 | 営業部(依頼)/購買部(承認) | 見積依頼書、発注書、仕入管理台帳 |
| 💻 使用システム | ⏱️ 所要時間・頻度 | ⚠️ 課題・制約条件 |
| Salesforce、Excel、会計システム | 1件あたり15分、月200件 | 承認者不在時に処理が滞留する |
補足:データ整理の観点
- 定量情報(件数・処理時間・頻度)は、業務の「重さ」や「優先度」を判断する指標になる
- 定性情報(担当者の意見・課題感)は、改善策立案時の“現場のリアル”を補う
情報整理のポイント
これらの情報は、担当者ヒアリングや業務観察を通じて収集します。ただし、ヒアリングの際に「いま困っていること」だけを聞いてしまうと、主観的な意見に偏る傾向があります。
そのため、客観的な事実(処理時間・頻度・発生件数など)と、主観的な意見(難しい・面倒・非効率など)を分けて記録することが大切です。
また、担当者によって言い回しや認識が異なるケースもあるため、複数のヒアリング結果を付き合わせ、共通点と差分を整理するプロセスが有効です。
6.業務フローは誰が作る? ― 作成と維持の体制づくり
三者協働で作るのが理想
業務フローは、現場だけでも上層部だけでも不十分です。現場担当者・管理者・PMOが役割分担を明確にしながら協力することが、品質の高い業務フロー作成の鍵です。
<業務フロー作成の体制サンプル(業務改革・DX推進)>
| 役割 | 主な担当 | 観点 |
|---|---|---|
| 現場担当者 | 実際の手順や例外対応を把握 | 実務の正確性 |
| 管理者 | 部門全体や他部署との連携を把握 | 全体整合性 |
| PMO・推進事務局 | フォーマット統一 ・整合性チェック | 品質と運用性 |
業務フローの作成については現場担当者の方が作る方が確実に正確で早くできますが、現実的には現行業務の対応に追われ活動の優先度が下がるケースがほとんどです。推進事務局や管理者(役職者)の方がサポートしながら活動進捗を促進する必要があります。
更新ルールを仕組み化する=BPM
継続的な業務改善を体系的に実施している企業は日本では少ないと言えます。顧客要望・外部環境は変化し、提供する商品やサービスも変えていくため、業務も常に変化します。
内部統制目的で業務フローを更新していくことはありますが、システム刷新プロジェクト等で見える化した業務も一過性に留まっていることが大半です。
毎回無駄なことをするより、会社の資産として管理していく仕組みを取り入れましょう。
7.自動化ツールで実現する業務フロー分析 ― プロセスマイニングの活用
プロセスマイニングの活用
近年では、システムログを基に、業務フローを自動生成できるツールが登場しています。これにより、以下のような分析が可能です。
- 実際の処理経路の自動抽出とモデル化
- 処理時間や例外率の自動算出やボトルネック箇所の特定
- 現場へのヒアリングをせずにプロセスの大枠と課題箇所の当たり付けが可能
業務実態の客観的データを得ることで、改善の方向性をより明確にできます。
自動化+ヒアリングで精度を高める
プロセスマイニングで自動的に可視化することは強力ですが万能ではありません。システム上のログデータになりますので、IT化が十分ではない企業やシステム外の業務が多くある企業にはまだ向いていません。
ほとんどの業務をシステムで実行している場合には強力なツールになりますが、ツールだけでは拾えない非公式フローが必ずあるため、ヒアリングで補完する必要があります。それでも、ゼロベースのヒアリングではないため、初動としては短期間で分析ができるでしょう。
適応する業務範囲などもあるため、PoC(概念実証)などのステップを得てから本格導入に進みましょう。
まとめ[AsIs業務フロー整理のポイント]
業務フロー整理はDX・業務改革の出発点であり、後続のToBe設計や改善効果測定の精度を左右します。
- 目的を明確にし、標準形式(BPMNなど)で整理する
- 階層構造を意識して全体と詳細のバランスを取る
- 定量と定性を組み合わせて分析する
- 三者協働体制で実態を反映し、更新サイクルを運用する
これらを実践することで、業務の可視化は単なる棚卸し作業ではなく、経営判断と改革を支える戦略的なプロセス設計活動に変わります。
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