DX推進や業務改革、システム刷新は、事業継続の観点で重要かつ難易度の高い取り組みです。小粒な成果に留まる、着手点が定まらない、導入したシステムが定着しない――こうした課題でプロジェクトが停滞・低成果に終わる例は少なくありません。
本稿では、現役コンサルタントが「確実に成果を出す進め方」を体系的に解説します。
1.DX・業務改革の必要性
人材不足による業務量への対応
労働人口の減少や転職市場の活性化などにより、多くの企業が採用難で悩んでいます。採用をかけても適切な人材から応募がなかなか来なかったり、せっかく手塩にかけて育てた若手も一昔前より転職に対する前向きな考えが強いため、想定外の退職が発生することも多くあります。そのため、人材不足で業務量に対応できなくなることも多々あり、業務の効率化はどのような企業でも必要になっています。
仕事に対する考え方の変化
ベテラン社員や特定の社員しかできないような属人化した業務は、どのような企業にも一定数あります。日本人は昔から「阿吽の呼吸」や「善かれ主義」で仕事を抱え込んでしまうことがあります。このような業務は、急な退職や休職時に業務継続性のリスクがあるため、標準化やマニュアル化が急務です。
また、昔のように「俺の背中を見て育て!」では新入社員を教育することはできません。しっかりと業務範囲・業務内容を明確にし、誰でも対応できるようにする必要があります。
「誰でもできる仕事にしましょう」と指示を出しても、なかなか業務を一般化したがらないことがありますが、業務は個人のものではないということを理解してもらい、協力してもらうようにしましょう。
技術発展とDX取り組みへの波
クラウドサービス製品の浸透やAI・RPAなど、IT技術の発展により業務効率化への取り組み機会が増えました。これらの技術を活用し、ビジネスモデルそのものを変革していくDX推進・業務改革に取り組む企業が多く、企業価値を維持・向上させるためにも真剣な取り組みが必要です。(市場に取り残されないように)
2.DX・業務改革でよくあるお悩み
DXや業務改革を進めることになったものの、さまざまな理由でうまく進められないことや成果が伴わないことがあります。
- 無駄はあるはずだが、誰が何を行っているか分からず、改善ポイントが分からない
- 現場の改善活動は行っているが、個別最適になりがち
- 社内リソースが少なく、推進できるメンバーを揃えられない
- せっかく始めたプロジェクトでも、現状業務が忙しく、間延びして計画通り進まない
- 新しいシステムやツールを導入したが、うまく使いこなせていない、もしくは成果が限定的
そもそもプロジェクトの進め方がわからない
部門の改善活動に取り組まれた経験はあるものの、組織横断でDX推進や業務改革に取り組まれた経験をお持ちの方はそれほど多くはいません。そのため、活動を始めても何から手を付けていいのか、どこの課題を優先して解決すべきか判断が付きにくく、場合によっては声の大きい人の意見のみで進んでしまうことが多いです。
成果が思うように出ない
DX推進やレガシーシステムからの脱却を狙いとして、とりあえずシステムを導入してしまい、思うように成果が出ない、現場の業務が混乱してしまった、という声を聞くことがあります。その施策を打つことで、どのような状態になりたいか、目的・目標をしっかり設定する必要があります。
現場の協力が得にくい
業務を変革するには、業務部門の方の協力が必要不可欠です。現業が忙しいため他の活動に時間を取られることに抵抗感を表すことが多くありますが、変革によるメリット、十分フォローする体制を説明し、納得していただき主体的に参画していただく必要があります。
3.DX・業務改革プロジェクトの流れ
業務改革を成功させるための一歩は、目的・目標を設定することです。プロジェクトのゴールを明確にするとともに、ターゲットとなる業務の選定、現場を巻き込んだ体制を検討し、ステークホルダー間で目的・目標をすり合わせることが必要です。そして、しっかり効果測定していくことで、パフォーマンス改善度合いを実感することができ、次の施策につながります。詳しく見ていきましょう。

[STEP1] プロジェクト計画で目的・目標を決める
1-1. 目的と目標の明確化
会社の経営課題や事業戦略など、方針・方向性を再確認し、経営層や部門長などの上位層が感じている問題意識をまず把握します。上位層の方はスケジュールが過密なため、「マネジメントインタビュー」と称して正式にインタビューを申し込むことで、活動の本気度が伝わります。日頃から会話できる関係性であれば、ヒアリングでも問題ありません。事業の方針・方向性を改めて確認し、定性・定量の目標を設定します。
1-2. 業務・IT両軸を踏まえた体制構築
経営企画部門や情報システム部門、DX推進部門などが主体となって活動を進めることが多いですが、変革した業務を遂行するのは業務部門です。そのため、役割を明確にし、参画を促す必要があります。体制としては「業務チーム」を設け、業務整理・新業務要件整理・教育計画などを担当してもらいます。IT施策の場合は、IT要件を事務局がサポートすることで、業務・ITの両軸で進行が可能です。
この段階から業務部門に参画してもらうことで、無理な要求や自部門都合、費用対効果を無視した要望が整理され、納得感のある仕様が完成します。ただし、業務負荷をできる限り軽減する工夫が必要であり、IT部門の歩み寄りが求められます。
1-3. 現実的なスケジュール(ロードマップ)の作成
何をいつまでに実施するのか、ハイレベルなスケジュールを作成します。関係者で意識を合わせるために、キックオフ開催日、各タスクの時間軸、定例会・中間報告会、施策実行やリリース時期などのマイルストンを設定します。100%計画通りに進まなくても構いませんが、目標として設定することで社内工数が明確になり、関係者間での合意形成が可能になります。
[STEP2] 現状把握・分析は面倒でもやる
現状把握・分析は非常に骨の折れる作業ですが、このフェーズの精度が今後の課題抽出・施策検討・効果測定に大きく影響します。手を抜かず、しっかり実施することを推奨します。現状把握の詳細な進め方は「【現役コンサルタントが解説!パート②】As-Is業務フロー整理のポイント」で解説しています。
2-1. ビジネスの全体感を把握する
DX・業務改革は全社的、もしくは部門横断的な活動です。木を見て森を見ずにならないよう、会社全体の事業構造図・業務概要図を作成し、全体を俯瞰できる資料を準備します。これにより、部分的・局所的な改善に偏らず、対象スコープを明確化できます。
2-2. 現状業務を見える化する
誰が見ても共通認識を持てるよう、統一ルールで業務フロー図を作成します。業務フローを用いることで、どのプロセスに問題があるのかが明確になり、会話の食い違いを防げます。特に現場とのヒアリングでは、異なる帳票やデータを同じ略称で呼んでいるケースもあるため、図を使って認識を合わせることが重要です。
業務フロー作成の過程で、顕在化している問題や潜在的課題、定量情報を収集し、分析・優先付けの基礎データとします。
2-3. 要因分析から課題を設定する
問題とは「あるべき姿(理想状態)」とのギャップ(GAP)です。このギャップの発生要因は多岐にわたるため、要因と真の原因を特定し、打ち手を検討します。分析を通じて、教育・運用ルールの変更が必要か、システム変更が必要かなどを分類します。
課題は「人(教育・組織)」「ルール(運用・規定)」「システム」の3観点で整理し、QCD+GS(ガバナンス・セキュリティ)の観点から優先度を設定します。ミスや手戻りが多い、工数が過大、属人化が進んでいるといった項目を中心に検討します。
近年では、システムログから自動的にフローを作成し、定量データやボトルネックを特定できる「プロセスマイニングツール」も登場しています。企業規模に応じて導入すれば、効率的な可視化・分析が可能です。
[STEP3] 実現可能な新業務プロセスを設計
洗い出した課題に対する解決策を検討します。新業務設計は理想論だけでなく、ヒト・モノ・カネといった制約条件の中で現実的な落としどころを見つけることが重要です。詳細な手法は「【現役コンサルタントが解説!パート③】To-Be業務フロー策定のポイント」で紹介しています。
3-1. 施策検討
課題に対してECRS(排除・統合・交換・簡素化)の手法などを活用します。たとえば、作業件数が多く1件あたりの工数も高い業務については、自動化(Rearrange)などを検討します。廃止・自動化・統合などの手段を整理し、実現ステップを施策としてまとめます。
ただし、内部統制や法令、セキュリティの観点で変更できない業務もあるため、関係者と確認しながら進めることが必要です。
3-2. 効果予測
施策を実施した際の効果をシミュレーションします。現状把握で収集した定量データを活用し、コスト削減や工数削減の見込みを算出します。半年に一度3時間程度しか発生しない業務に対してシステム投資が妥当かどうかなど、投資判断を伴う分析も重要です。
3-3. 新業務フロー(To-Be)の作成
施策と効果予測をもとに、新業務フローをドキュメント化します。ウォークスルーを通じて関係者の認識を合わせ、業務部門が実際に遂行できるか、変化点・難易度・体制などの観点で実現性を確認します。システム化を伴う場合は、画面イメージを共有することで理解が深まります。
業務フロー作成ツールを活用すれば、修正・更新が効率化します。製品によっては仮説検証シミュレーション機能を備えているものもあり、効果予測をより正確に行うことができます。
[STEP4] 実行計画はより具体的に
これまでの調査・分析・検討内容をもとに、社内承認用の実行計画をまとめます。
4-1. 当初の目的・目標と施策の関係
プロジェクト開始時に掲げた目的・目標と、解決すべき課題・施策の対応関係を整理します。特にシステム化を含む施策では、投資対効果を定量的に示す必要があります。そのため、ITツール情報を事前に収集し、概算の予算感を設定しておきます。
4-2. 運用テストも見据えた実行体制
マネジメント層をオーナーとし、業務部門のリーダークラス以上の参画を得ます。IT化施策がある場合は、ITチームリーダーと業務チームリーダーを選任し、密に連携を取ります。業務に精通し現場に影響力のある人材を配置するのが理想です。
若手育成を目的にメンバーを登用する場合は、マネジメント層のサポート体制を整えましょう。定例会や報告会で課題が出た際は迅速に対応し、必要に応じてプロジェクトオーナーにエスカレーションします。
4-3. スケジュールは詳細に(大・中・小日程)
実行計画では、ロードマップに加えてWBS(Work Breakdown Structure)を作成します。小日程まで落とし込む必要はなくとも、中レベル(週単位)までは必須です。週単位で進捗確認を行う際は、遅延が連鎖しないよう注意が必要です。
「誰が・何を・いつまでに完了させるか」を明確にし、タスク漏れがないか確認します。
資料構成例:「プロジェクトの背景、目的・目標、現状の問題点、課題と施策、投資対効果、スケジュール、実行体制」など。現状分析資料はエビデンスとして付録(Appendix)にまとめると説得力が増します。経営層へ説明する際は、1〜2枚のエグゼクティブサマリーに凝縮しましょう。
[STEP5] 評価・モニタリングでこれまでの活動をレビュー
5-1. 運用状況の確認
新業務運用がリリースされた後、現場で混乱がないかを確認します。教育や展開状況を事前にチェックし、問い合わせルートやトラブル発生時の対応手順も整備しておきます。複数拠点で同時リリースする場合は、各エリアに担当者を配置し、当日の現場サポート体制を構築します。
5-2. 課題管理
リリースまでに解決できなかった、あるいは優先度を下げていた課題については、課題管理表で対応期限を明確化します。また、運用開始後に新たに発生した課題も都度記録し、重要課題は迅速に再検討できるよう、日次報告会を設けます。
5-3. 定量的な評価
投資対効果シミュレーションで予測した成果が出ているかを検証します。業務の特性上、変更直後は数値が安定しないこともあるため、経験曲線を考慮して最終的に定着後(約3カ月)を目安に評価します。定性的な「便利になった」「楽になった」といった現場の声も大切ですが、全体最適の観点で総合的に判断することが重要です。
まとめ[成果を出すDX・業務改革の進め方]
DX・業務改革は単なる業務改善ではなく、多くの関係者を巻き込み、会社の戦略・方針を支える重要な取り組みです。明確な目的・目標を掲げ、現場の方を主役としてサポートしていく「一枚岩の活動」であることが成功の鍵です。
全体構想を整理したうえで、小さな成功体験を積み重ねるスモールスタートからでも十分に進めることが可能です。段階的に成果を積み上げ、社内に定着させることで持続的な業務改革を実現できます。
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