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【はじめに】DXを検討するためのDTOという視点

DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める際は、導入したシステムと実際の業務の変化を結びつけて確認することが重要です。

業務プロセスや組織の構造をデータと結びつけて把握できれば、改善すべき場所を検討しやすくなります。

こうした検討に使える視点の一つが、DTO(Digital Twin of an Organization/組織のデジタルツイン)です。

DTOは、組織の業務や資源の状態を、運用データとその背景情報を用いて表す動的なソフトウェアモデルです。更新頻度や分析範囲は、対象と利用できるデータによって異なります。

本コラムでは、このDTOの概念と実現手法を、世界的動向とともにわかりやすく解説していきます。

1. デジタルツインとは何か ── NASAに始まり、製造業で発展した「仮想の双子」

DTO(組織のデジタルツイン)を理解するには、まず「デジタルツイン」という概念そのものを知る必要があります。

デジタルツインとは、現実世界に存在するモノやシステムをデジタル上に再現し、その挙動や状態を可視化・分析する仕組みです。

現在のデジタルツインにつながる発想には、NASAのアポロ計画で使われたシミュレーターや機体モデルの活用があります。製造業でも、実物とデータを結ぶモデルの利用が進みました。

NASAが生んだ「仮想の双子」という発想

NASAは、アポロ13号の事故対応に使ったシミュレーターと機体モデルを、現在のデジタルツインにつながる先例として紹介しています。

NASAの説明では、アポロ13号の事故後、地上のシミュレーターと機体モデルを用いて異常の原因や対処案を検討しました。現在の意味でのデジタル空間を当時そのまま実現していた、という意味ではありません。

実物の状態に合わせて地上のモデルを使い、対応を検討した点が、後のデジタルツインに通じます。

その後、現実の対象から得たデータをモデルに反映し、状態把握や将来の検討に役立てる考え方が発展しました。

参考:NASA「Why does the world (and NASA) need digital twins?」。NASAは、アポロ13号での活用と2010年におけるJohn Vickersの用語への関与を説明しています。

製造業での進化 ─ IoT・AIが広げた適用範囲

製造業では、設備から得たデータとモデルを結びつけ、状態の把握や予測に役立てる取り組みが広がりました。AIやセンサーの利用は対象や目的によって異なります。

設備や製品の状態をモデルで把握し、運用や保守の判断に役立てることは、デジタルツインの活用例です。

NASAは、宇宙開発に加え、医療や製造現場などでの応用可能性にも言及しています。ただし、分野ごとの普及度や効果は個別に確認する必要があります。

組織の業務や資源を対象にするDTOは、こうしたデジタルツインの発想を組織運営へ適用する考え方です。

2. Gartnerが定義する「DTO(組織のデジタルツイン)」

Gartner(ガートナー)はDTOを扱う調査資料を公表しています。ここでは同社が公開する説明を参照します。

Gartnerの公開説明では、DTOは運用データと文脈データを使い、組織の事業モデル、現状、変化への対応、資源の配置、将来の状態などを理解するための動的なソフトウェアモデルです。

以下ではGartnerの公開説明を要約し、実務で考えやすい形に整理します。

Gartnerの公開説明の要約

DTOは、組織の運用データとその背景情報を用いて、業務の進み方や資源の使われ方を理解し、変化や将来の状態を検討するための動的なモデルです。

この説明は、DTOで何を把握したいかを示すものです。すべての組織で常時リアルタイム更新や自動最適化が必要という意味ではありません。

参照:Gartner「Market Guide for Digital Twin of an Organization Platforms」(2024年11月20日)。Gartnerの調査資料。上記のDTOの定義はGartnerの公開市場定義(https://www.gartner.com/reviews/market/digital-twin-of-an-organization-platforms)を参照しています。

DTOは、業務や資源の関係をデータと結びつけ、組織の現在の状態や変更案を検討するためのモデルと捉えられます。因果関係を自動的に証明するものではありません。

DTOを理解するための4つの観点

以下の4つは、本記事が実務上の理解のために整理した観点です。Gartnerが定める必須の4要素ではありません。

  1. 構造(Structure) ⋯ 組織・業務プロセス・システム・人材の全体モデル
  2. データ(Data) ⋯ 運用データ、ログ、トランザクション、文脈情報
  3. 分析(Analytics) ⋯ 現状把握・KPIモニタリング・予測・シミュレーション
  4. 最適化(Optimization) ⋯ 改善施策の反映・自動化・継続的学習

これらの観点を手がかりに、対象業務で必要なモデル・データ・分析・改善の範囲を選べます。次の4層も本記事の説明用の整理です。

他社が示すDTOの定義との比較(QPR/Mavim/Ardoqなど)

次の表は各社の公開説明を参考に、本記事が着眼点を短く整理したものです。各製品の機能や導入効果を同一条件で比較した結果ではありません。

提供元公式説明で確認できる着眼点
QPR業務の実行状況をデータと結びつけて把握する。
Mavim組織の情報を結びつけ、変更の検討に用いる。
Ardoq組織の構造と運用情報の関係を捉える。
SAP Signavio業務プロセスの記述や実行状況の分析に関連する製品がある。

これらの視点を踏まえると、DTOを組織の業務・資源・データを関係づけて判断に使う考え方として理解できます。適用範囲は目的とデータの条件に応じて決めます。

3. DTOが注目される背景と効果──なぜ今「組織のデジタルツイン」なのか

組織の業務やシステムの関係を把握し、変更の影響を検討したい場面で、DTOという考え方が役立ちます。

この章では、「なぜDTOが今求められるのか」「企業にもたらす具体的な価値は何か」を整理します。

DXを進める際に確認したいこと

DXの取り組みを評価するときは、システム導入そのものに加え、業務の流れや成果がどう変わったかを確認します。

システムや部門ごとに記録が分かれている場合は、業務全体の流れを追うためにデータを対応づける必要があります。

DTOは、対象とする業務や資源の関係をモデルに表し、得られるデータと照らして現状を検討する方法です。データの欠落まで自動的に解消するわけではありません。

環境変化と組織の複雑化

複数のシステム・ツール・外部サービスを使う業務では、どのデータがどの作業や資源に対応するかを確認すると、変更案を検討しやすくなります。

その際は、対象業務を定め、システム間のデータのつながりと不足を確かめます。

DTOでは、対象となる業務や資源をモデルに表し、利用できるデータに基づいて変更案を検討できます。数値による比較には、必要なデータと妥当な前提が要ります。

このように検討材料を整理すれば、意思決定の根拠を明らかにしやすくなります。対応速度が高まるかどうかは運用によります。

DTOで検討できる3つの目的

次の表は、DTOの利用目的を本記事が3つに整理したものです。いずれも達成済みの効果や成果の保証ではありません。

検討する目的実務で確かめること
変化への対応を検討する対象業務の実績と変化の兆しを確認し、対応案を比較する。
変更案の影響を考える前提と利用可能なデータを示し、想定外の影響がないか実施後も確かめる。
資源の使い方を考える人員や設備などの配置案を検討し、結果を実績で評価する。

これらは、モデルとデータを判断に結びつける際の検討項目です。効果は、対象業務、データの質、実施した改善を確認して判断します。

DTOはDXの検討を支える手法の一つ

DXとDTOは時系列で必ず進む段階ではありません。DTOは、業務や資源の状態をモデル化し、変化の検討に使う手法の一つです。

本記事では、DTOをDXの取り組みを検討するための一つの手段として扱います。「構成可能なビジネス」との関係をGartnerの必須見解として断定しません。

組織の変化に対応するには、業務と資源の関係を把握し、変更案を検討できることが役立ちます。これは本記事の整理です。

参考:Gartner「Market Guide for Digital Twin of an Organization Platforms」(2024年11月20日)。前段落は本記事の見解であり、Gartnerからの引用ではありません。

次章では、DTOを考えるための説明用の4層モデルを紹介します。

4. DTOの仕組み ── 4つのレイヤーで組織を写し取る

以下の4つの層は本記事が理解を助けるために整理した例です。Gartnerが定めたDTOの必須構造ではありません。実際の構成は目的と既存システムに合わせて設計します。

モデル、データ、分析、改善を区別すると、何が足りないかを検討しやすくなります。各層を順番どおりに構築すれば改善が実現する、という意味ではありません。

レイヤー① モデル化層(Model Layer)

目的: 業務プロセスや組織構造、役割、ルールなどを定義し、組織活動の全体像を「見える化」する。

具体例:

  • BPMNによる業務フロー設計
  • RACIチャート(役割・責任整理)
  • 業務階層体系(APQCなどのフレームワーク参照)

ポイント: ここでは対象業務の現状や役割を整理します。目指す姿だけを定義しても現状との比較はできないため、実際の流れも確認します。

レイヤー② データ取得層(Data Layer)

目的: 実際の業務実行から発生するイベントログやトランザクションデータを収集・統合する。

具体例:

  • ERP/CRM/ワークフローなどの業務システムのログ
  • 各種アプリケーションの操作履歴・承認記録
  • 業務KPIやリソース稼働データ

ポイント: データの取得範囲や精度を確認することが大切です。分析に使えるかどうかは、欠落や記録方法も見て判断します。

レイヤー③ 分析層(Analytics Layer)

目的: 収集したデータを用いて、実際の業務プロセスの動きを可視化し、ボトルネックや非効率を分析する。

具体例:

  • プロセスマイニングによるAs-Is分析
  • KPI/リードタイム/パス分析
  • What-ifシミュレーションによる改善シナリオ評価

ポイント: 現状と目標の差を確認し、改善案を検討します。データから原因を直ちに確定できるわけではありません。

レイヤー④ 最適化層(Optimization/Execution Layer)

目的: 分析で得た知見をもとに、改善施策を実際の業務に反映し、その結果をモニタリングする。

具体例:

  • ワークフローやローコードツールによる自動化
  • アラートルール設定による運用最適化
  • モニタリングダッシュボードによる効果検証

ポイント: 採用した改善策の実施状況と結果を確認します。改善が定着したかは実績で判断します。

4層の構成

目的: 以下の4層を手がかりに、対象業務のモデル、データ、分析、実行を整理します。実行後に結果を確認し、必要なら前段階を見直すことは、本記事が提案する運用手順です。

解説:

  • モデル化層で定義された理想像
  • データ取得層で収集される実績データ
  • 分析層で得た洞察
  • 最適化層で実行された改善

下図は本記事が説明用に整理した4層の構成です。Gartnerが定める標準図ではありません。実施結果を見て前段階に戻る手順は、図とは別に本記事が提案する進め方です。

DTOを説明する4層の構成

5. DTOとDX・BPMの関係 ── DXを支える“橋渡しの概念”

ここでは、DXを目指す際にBPMで業務を整理し、DTOで関連するデータと資源を結びつけて検討する、という本記事の見方を示します。

この章では、DX・BPM・DTOの関係を整理しながら、企業がどのように段階的に取り組むべきかを解説します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は「目的」

DXとは「デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化を変革し、新しい価値を創出すること」。

この章ではDXを目指す変革の方向、BPMを業務を管理・改善する方法、DTOを組織をモデルで捉える方法として整理します。

経営戦略と現場改革を分断せず、戦略→実行→検証を循環させることがDX成功の鍵となります。

BPM(ビジネスプロセスマネジメント)は「手段」

BPMは、業務プロセスを可視化・標準化し、改善を継続的に管理するためのマネジメント手法です。

  • 業務フロー設計(As-Is/To-Be)
  • プロセスKPIの設定とPDCA
  • プロセスマイニングによる実態把握

BPMでも対象範囲を広げれば、部門をまたぐ業務を扱えます。DTOと組み合わせる場合は、業務の記述に運用データや資源の関係を結びつけて検討します。

DTO(組織のデジタルツイン)は「つなぐ基盤」

DTOは、対象の業務、資源、運用データを結びつけ、組織の状態や変更案を検討するためのモデルです。常に組織全体をリアルタイムで再現する必要はありません。

  • DX(戦略レイヤー)を現場実行へ橋渡しする「構造的モデル」
  • BPM(実行レイヤー)の改善結果をDX戦略にフィードバック
  • 組織を“生きたデジタルモデル”として運用可能にする

こうした整理は、戦略と実務をデータで照らし合わせる手がかりになります。成果の測定や改善には、対象と指標を決め、実施後の結果を確かめる必要があります。

DX/DTO/BPMの関係マップ(全体図)

考え方この表での役割
DXデジタル技術を使い、事業や業務の変革を目指す方向。
DTO対象業務や資源をデータと結び、現状と変更案を検討するモデル。
BPM業務プロセスを記述し、管理と改善を進める方法。

この表はDX・DTO・BPMの役割を本記事が比較したものです。DTOが組織全体を再現して成果を自動的に最適化するという意味ではありません。

DTOは、対象とする業務のデータを戦略上の検討に役立てる一つの方法です。

6. DTO実現の第一歩は「業務の見える化」から

DTOの実現には、データ基盤や分析環境の整備が欠かせません。しかし、その前提となるのは、業務の構造を正しく把握することです。

対象業務を可視化し、実績データと結びつけることは、DTOを検討するための取り組みの一例です。プロセスマイニングを必ず導入する必要はありません。

業務データとモデルを照らし合わせ、どの判断に使うかを明らかにすることから始められます。組織全体のモデルへ拡張するかは、目的と費用に応じて判断します。

DTOを「未来の仕組み」と捉えるのではなく、今日の“業務改善の積み重ね”の先にある“次の姿”と考えることが重要です。

以下は架空の例です。 受注から出荷までの業務を対象にすると、DTOで何を見て判断するかが具体的になります。

  • 対象と資源:受注確認、在庫確認、出荷準備の流れと、担当者・在庫・作業設備を対応づけます。
  • 実績データ:各注文の受付、確認、出荷準備、発送の時刻を記録し、どの工程で待ち時間が生じたかを見ます。
  • 判断する指標:未処理の注文がどの工程に滞留しているかを確認します。仮に在庫確認で滞留が目立てば、担当者の配置や確認手順の変更を検討します。
  • 実行後の確認:変更を実施したら、実際の処理時刻と未処理件数を再び見て、待ち時間が減ったか、別の工程に滞留が移っていないかを確かめます。

この例は説明のための想定であり、特定企業の実績や改善効果を示すものではありません。業務の一部を実績データと結びつけ、判断と再確認に使うことが要点です。

まとめ ── DTOは“未来の構想”ではなく“次世代の業務改善手法”

DTO(Digital Twin of an Organization)は、業務や資源の関係をデータで表し、現状や変更案を検討するための動的なモデルです。対象を小さく定め、何を判断したいかから設計できます。

モデルを運用に役立てるには、使うデータの範囲と更新方法を決め、判断や改善にどうつながったかを実績で確かめます。

まずは対象業務を一つ選び、業務の流れと実績データを対応づけ、どの判断に役立つかを確かめることが現実的です。

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